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取り留めのないことを取り留めなく書き留めるブログ

撃て。撃とうと思うまえに

森博嗣 読書感想 スカイ・クロラシリーズ

 森博嗣『クレィドゥ・ザ・スカイ』読み終わりました。文庫本で持ってるけど、これはあの綺麗なハードカバーが欲しくなりますね。汚れたらちょっと落ち込みそうだから、保管が難しいかもしれないけど。

 

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (中公文庫)

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (中公文庫)

 

  

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

 

 

 上が文庫本。下がハードカバー。文庫も文庫でシンプルなのは気に入ってます。

 

 小説、というかストーリーのある作品は、その設定のすべてを説明しているかしていないかという違いがあると思う。もちろんどちらにも楽しみ方があるので説明できているから優れているだとか、読者の想像を膨らしてくれるから味わい深いだとか、両者に対して優劣はつけられないけど、この『クレィドゥ・ザ・スカイ』に関して言えば間違いなく後者だった。

 『スカイ・クロラ』から始まり、『ナ・バ・テア』、『ダウン・ツ・ヘブン』、『フラッタ・リンツ・ライフ』とスカイ・クロラ以前に起きた物語が綴られてきた。徐々に明かされる草薙水素という存在や、示唆されるキルドレの秘密。このまま『クレィドゥ・ザ・スカイ』を読めばすべてが一直線に繋がるだろうし、もちろんそれを期待してこの本を読んだ。しかしその期待は裏切られるどころか、『スカイ・クロラ』にまで及ぶような謎をぶち込んできた。

 

 主人公が誰なのか分からないのだ。

 

 『フラッタ・リンツ・ライフ』を読んだ後にこの本を読めば、状況から主人公はクリタだと思われる。だけどストーリーを読み進めるにつれて、カンナミなのか、それともクサナギなのか、はたまたそのどれでもない誰かなのか。主人公は記憶が曖昧なため一言も自分の名前を言うことはないし、関わる人々も名前を呼ぶことは無い。ただ一度だけ、主人公の幻覚の中でとある人物が今まで出てきた登場人物の名前を呼ぶが、それが本当に主人公なのかは分からない。そしてその謎は、スカイ・クロラに出てきた登場人物の存在さえも怪しいものにしてしまうくらいの衝撃だった。

 『クレィドゥ・ザ・スカイ』で検索してみると、案の定「主人公」という予測文字が出てくる。いったいこの本の主人公は誰だったのか、という謎には考察されているサイトもあるようだ。一応シリーズの中の『スカイ・イクリプス』はまだ未読なので、僕はその謎についてはあーだこーだ考えながらもまだ結論を出さずにいようと思う。いや、結論を出さないという結論を出すかもしれない。回りくどい言い方好き。

 

 この主人公の謎でもとても惹き込まれるが、『クレィドゥ・ザ・スカイ』の見所はそこだけではない。今までは「戦争をする組織の中」が主な舞台であったけど、この本はその中ではない。幻覚の中で何度か主人公は飛行機に乗るが、実際に飛行機に乗る場面は今までと比べて極端に少ないように思う。

 いわば、地上でのしがらみだらけの中に主人公はいる。それも指揮官になって思うように飛べなくなったクサナギとは違い、また飛べるかどうかも分からないし、関わる人物たちは飛行機に乗るという命のやり取りから遠ざけようとしている。キルドレという死ぬことの無い存在が同じ人間であるように求める者たちは、やはり彼らのことを理解し切れていない。そんな描写がこの本では色濃く現れていると思う。

 それは決して小説の中だけではなく、現実世界でも似たようなことはよくあるんじゃないかなと。自分は魅力的だと感じていることをしたいと思っていても、それは現実的ではないからと周囲に反対されるような、そんな身近な経験についつい重ねてしまう。それでも純粋で居続けるキルドレだからこそ、こんなに惹きつけられて羨望をもってしまう。

 

 でもやっぱりキルドレは架空の存在だし、いくら「キルドレいいなぁ」と思ってもなれっこなんかないから、せめて周囲に左右されない自分自身というものをしっかり持ちたいなと思った。頑張れ俺。